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ソニーの凋落

についての論考が『文藝春秋』新年号に掲載されていた。その中で、ソニーの凋落を招いた原因として「フロー」の喪失があると言う。「フロー」とはアメリカの心理学者チクセントミハイ氏が唱えた用語で、無我夢中で何かに取り組んでいるときの精神状態と言う。技術者たちがこの「フロー」の状態に入ると「燃える集団」が構成され、創造的仕事もなされる。そのためには「内発的動機に基づいて行動すること」が必要で、それは報酬や評価を得たいと言う「外的動機」によらない。そのような条件を企業は醸す必要があるという。

何だ、これは没我の状態にして「流れる心」であり、先に書いた自分を注ぎ出ている状態である(→意識の扱い方およびいのちの内発的発露)。日本ではすでに剣の達人柳生但馬が言っている、「心の病とは心が何かにとどまること」と。フローはこの逆であり、禅やいわゆる「道」が求めた「無心」あるいは「忘我」の状態である。前にも書いたが、道元はこう言っている

佛道をならふといふは、自己をならふ也。自己をならふといふは、自己をわするるなり。自己をわするるといふは、萬法に證せらるるなり。萬法に證せらるるといふは、自己の身心および他己の身心をして脱落せしむるなり。

また道元の『正法眼蔵生死』のキリストヴァージョンはこちらを・・・。いずれも今のニッポンがアメリカの長期戦略の中で喪失したもの。すでに日本にはある(った)のだ。

かくしてソニーの凋落もまさに先に述べた精神エネルギーの滞留と空転によるのであり、現代ニッポンの病理のまたひとつの大きな兆候である。