大阪小学校無差別殺傷事件について


■本稿はリバイバル新聞2001年6月17日号の記事の原稿です。


◆痛ましい事件である。本稿を依頼されてネット上で情報を収集する中で関係者の声に触れた。三人の子供を持つ者として、いたいけな犠牲者と親御さんを思うとき涙を禁じ得ない。実は私の友人の友人(教師)も被害者である。奇しくも当日私は大学の講義で、孤立した妄想を抱く者による犯罪が今後ますます増加することを指摘した。その帰宅途上事件を知り自分の予想をはるかに越えた事態が起きたことに戦慄を覚えた。

◆すでに様々な機会に昨今の猟奇的犯罪の精神病理と霊的病理を述べているが、社会や共同体の崩壊に伴って身心の置き所を喪失した自己疎外感・不全感を持つ者たちは、自閉傾向を深めつつ自分を疎外する(と勝手に思い込む)対象に対する憎悪を内側に溜め込み、加えて悪霊の想いや映像の霊的投影によって妄想を膨らませる。一般とは共有し得ない世界観を構築し、そのプロトコル(判断行動様式)に従う振舞いの結果、周囲からますます孤立する。こうして疎外感と不全感を増幅し、挫折感と憎悪を蓄積していく。

◆犯人は事件直前の抗精神薬を大量服用したと述べ、警察に対しても妄想と思える供述をしたが、一転服用を否定している。二本の包丁の購入に際して、"効果"を考慮した選択をしており、犯行にも計画性が見て取れる。特に卑劣なのは弱い者を選択的に狙った点である。さらに以前にも抗精神薬を同僚に盛った事件では措置入院させられたり、一方で離婚の件で訴訟を起こしている。その訴状は自作でしかも玄人はだしの文面であった。以前の職場でも人間関係上の問題を起こし、さらに学校時代の同級生によると当時から奇行が観察され、親からも二十年前に勘当されていたようである。彼の病院の診断は妄想性人格障害であった。

◆妄想とは自己の内にある憎悪とか嫉妬などを相手に投影して、相手が自分を憎んだり嫉妬していると邪推し、病的に恐れたり、逆に攻撃したりする精神病理である。最近のストーカーなども自分の恋愛感情を相手に投影して追い回す点で同様の病理による。またオウムなどのカルトの被迫害妄想(パラノイド)も同様の心理機制による。本件もその根底にある精神病理や霊的病理は同一のものである。カルトの場合は自己疎外感・不全感を持つ教祖の妄想を共有し得る範囲で共同体が形成されるが、九十年代後半以降個人レベルに解体している。犯人の写真からはいわゆる"分裂病臭さ"があまり感じられず、むしろ確固たる自己主張に満ちている風貌であった。責任回避のために抗精神薬の服用を偽ったり、訴状を自作したり、離婚した元妻に執拗に復縁をせまったりなどの行動から、相当の偏執性が感知される。名門小学校をあえて狙ったことも彼の屈辱感と自己疎外感・不全感の裏返しである。おそらく彼は何らかの"声"を聞いていると推測する。

◆また本件は日本の精神医療の貧弱さを露呈した。昨今患者の人権が"水戸黄門の印籠"になり、医師たちも保険制度に縛られて、十分な精神療法もできず、いきおい薬物に逃げているのが実情である。患者は医療によって薬物依存に陥る。病院サイドも保険点数を第一にした処方を医師たちに要求する。事実首都圏のある大きな精神病院の副院長をしていた私の友人は良心が耐え得ないという理由で年俸二千万を捨てた。私の扱ったケースでも、霊的な声を聞き、言動がおかしいとして措置入院させられた者があった。彼女の主治医が慎重な方で、単なる精神分裂病ではないとして私に協力を求めてこられ、現在は回復している。不注意な医師によればただちに分裂病にされてしまう。事実、精神障害者の法的認定を受けてしまった例もある。現在の日本の精神医療は霊的要因をまったく考慮しない。すでにWHOが"霊的健康"という概念を提唱しているにも関わらず、日本の精神医学は霊的無知の中に眠り続けている。

◆ひるがえって真理の柱であるべきキリスト教会ではいかがであろうか?真理を委ねられた教会において、嫉妬や競争心などに由来する様々の幼稚な問題が起きている現実をどう評価すべきだろうか。日本の霊的状況はお体裁の"砂糖まぶしの福音"では対応し得ない局面に立ち至っていることを教会が認識しているであろうか?サタンは霊的鈍磨に陥っているキリスト教会の現状をほくそえみつつ、昨今の事件によって自らのリアリティを証している。私たちはキリストの十字架の霊的リアリティをどれだけ深く知り、その中を歩み、この闇の世に証しているだろうか?今回もサタンは幼子を憎み、いつも弱者が犠牲になることが証明された。私たちは霊的に怒るべきであり、自分が霊的戦場の真っ只中に置かれていることを再認識すべきである。そこは自分のメンツやプライドなどが一切無力であり、ただキリストの十字架のみが力を持つ場である。私はエホバの証人ではないが「目覚めよ!」と叫びつつ、イエスの証人たちの霊的覚醒を喚起したいと願う。




mbgy_a05.gif